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星野暁展「背後の輪郭」(赤坂グリーン・ギャラリー 1999.6.24-7.10)
(文・柏木麻里)

『陶説』557号 1999年8月


一面の指痕が広げられた内部と、大きな凹凸が溝状に全体を覆う外部。幅1メートル近くもある作品の前に立つと、空気への圧力のような土の熱気が迫ってくる。
 星野曉さんの「背後の輪郭 」黒い陶の作品群は、黒御影土を紐作りで成形した上に、黒御影ベースに黒顔料を加えた泥漿を吹き付け、1235度の高温でガス窯焼成されている。固く焼き締まった土肌だが、見たところは粘土のやわらかさを感じる。

星野さんの作品は当初、紙や金網といった異素材と土を組み合わせた形でスタートした。1978年から数年続く黒陶作品「表層・深層」シリーズは紙、83年にはじまる「Temporary Style(仮の姿)」シリーズはステンレス金網に顔料を混ぜた土を貼付し、焼成後に得られる流動的な形がモチーフとなっていた。しかし87年以降の作品では、紙や金網は抜きとられて、土と身体が直接、対峙する。具体的にいえば、土を指で押したへこみと、押したことで盛り上がる土、その双方が作りだす、うねるような表層が作品として提示されたのだ。

今回の「背後の輪郭」も、そのような土と身体の直接的な関係の流れに位置づけられる。が、これまでは指痕の面を表側としていたのに対し、今回はその裏側に現れた形に注目し、表裏逆の作品としている。土を内側から指で押し、これを外側の手で受けながら形作る新しいアプローチ法は、同展パンフレットによれば今春、信楽陶芸の森で円筒状の大作を制作した過程から見出されたものであるという。

指痕に覆われた、でこぼこの内部を見ると、身体と土のやりとりは、指のへこみと土の盛り上がりとして明確に表れている。しかし外側の表面に露出した大きな凹凸は、いったい何が印したものなのだろうか。もちろんいかなる凹凸も、作者である星野さんの身体に対する土の反応なのだが、内側に残された作者と土の、いわば一人称と二人称の語り合いにも似た直接的な痕跡とは別の、もっと間接的な、遠くで結ばれた形のように思われる。人だけでも土だけでも作りえない、その往還が「背後」に浮かびあがらせる形。身体という「私」と、土という「あなた」が関わりあうプロセスから生まれた、もう一つの人称、その輪郭が地熱のような息をあげてそこに在る。外側に曝された凹凸はまた、本来は人の目に触れない身体の内部のような、裏側にあって私たちを受けとめている存在のようにも感じられる。星野さんの黒い陶が切りひらいた新局面は、とても大切なことを語っている。